2015年07月19日

湯宿 中棚荘は文豪島崎藤村の『千曲川のスケッチ』にも登場

中棚荘は懐古園の南西、千曲川へ下りる坂の中腹にあります。
創業明治31年(1898年)、「島崎藤村ゆかりの宿」として知られる老舗温泉宿です。


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島崎藤村(1872年〜1943年)は『千曲川のスケッチ (新潮文庫)』のなかで

「この連中と一緒に、私は中棚の温泉の方へ戻って行った。沸し湯ではあるが、鉱泉に身を浸して浴槽の中から外部(そと)の景色を眺めるの心地(こころもち)が好(よ)かった」(この連中=師範校の学生)
と記しています。

藤村は小諸義塾を開設した木村熊二(1845年〜1927年)に英語教師として招かれました。アメリカで医学を学んだ木村熊二は、中棚付近の湧き水が傷の治療に効果的なことに気づき、長野県に鉱泉分析を依頼。明治31年、中棚鉱泉(現在の中棚荘)開業へと至りました。

昭和63年(1988年)に新しい源泉を掘り、当時とは異なった温泉を使用しているため、残念ながらこの鉱泉は使われていません。
木々が生い茂る庭を散策すれば、今も湧出する往時の鉱泉を見つけることもできます(わからなかったらフロントに)。


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「簡素にして新鮮」を貫く文人風呂

平成27年で創業117年を数える老舗の宿ですが、現在のコンセプトは「簡素にして新鮮」。それがもっとも表現されたのが、平成館(平成5年全面新築改装)の「文人風呂」です。

「文人風呂」は高台に位置するためと平成館にある入口から石段を上らなくてはなりませんが、この石段が秘湯ムードと期待感を盛り上げ、湯治気分が高まること請け合いです(夜は、石段が明るく照らされ、24時間入浴が可能です)。

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その「文人風呂」、眺望露天風呂を備える「樹林の湯」、「観月の湯」の2ヶ所が男女別の浴室になっています。
清潔に保たれた浴室に入って、まず驚くのが、脱衣所の畳敷き!
屋内の洗い場、浴槽との仕切りには下の写真のように扉がありません。

「もっと自分を新鮮に、そして簡素にすることはないか」

これは、『千曲川のスケッチ』のなかで、《これは私が都会の空気の中から脱け出して、あの山国へ行った時の心であった。》と藤村自らが綴った小諸行きの心情。

この藤村の心情を生かして、簡素にして新鮮なのがこの文人風呂という訳なのです。
実際、豪華を売りにする旅館の大浴場に見比べれば、「簡素」ですらあるのですが、
この内湯に足を踏み入れたときの「新鮮な感動」は、とても言葉に表せません。

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随所に散りばめられた心憎いサービス

泉質は弱アルカリ性低張性温泉で、神経痛、筋肉痛、冷え性、慢性消化器病などに効能があります。
源泉温度は40℃。眺望露天風呂の最奥の湯船は加温せずに竹の筒で直接浴槽に注いでいます。つまりは加温もなし。もっともピュアな源泉が楽しめるわけです。

内湯は露天に比べて少し熱く感じますがこれは加温しているから。それぞれ湯船の温度を調整しているので、体調、気分にあわせて好みで選べるのもうれしいサービス。
夜はのんびり温めのお湯で、朝はすっきり熱めのお湯でというような楽しみ方ができるのです。

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温泉は飲用も可能(正式に飲泉許可も取得)で、大浴場に向かう石段の途中に、飲泉の施設と椅子が用意されてますので、入浴前に、まろやかな源泉を、ぜひ飲んでみて下さい。
体の内から外からダブルで効能が得られること間違いないでしょう。

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のんびりと湯に浸った後は帰りの石段でもひと休みして、もう一度湯上がりの飲泉を。
ここにも心憎いサービスが。

ベンチ傍らに伝言板が設置されています。
「先に出たから売店にいるよー」なんて、カップルやファミリー間での伝言が可能な仕組み。
年配の人には昔懐かしい「駅の伝言板」の中棚荘お風呂バージョンというわけです。

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平成館の部屋には丁子染めのタオルと館内用のタビックス(足袋型の靴下)が用意されています。
丁子染めは、香木の一種である丁子(ちょうじ=クローブ)のつぼみと灰汁と鉄分で染めたもの。
丁子の精油には殺菌・防腐作用があることが知られています。
また日本の伝統色の丁子色(#efcd9a/R:239 G:205 B:154)のひとつにもなっています。
うーん、お洒落ですねぇ。

また、眺望露天風呂に通うための手提げかごは、これまた特注のオリジナルと、隅々までおもてなしの心でいっぱい。
これまで泊まった宿の中でも、ダントツに素敵なお宿です。

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10月から5月なら「初恋りんご風呂」

中棚荘では10月から5月には「初恋りんご風呂」と銘打って浴槽にりんごがプカプカ浮かびます。
「初恋りんご風呂」は、島崎藤村の処女詩集『若菜集 (愛蔵版詩集シリーズ)』に収められた『初恋』にちなんだもの。

まだあげ初めし前髪の
林檎のもとに見えしとき
前にさしたる花櫛の
花ある君と思ひけり

初恋は甘酸っぱい思い出と良くいわれます。甘酸っぱい思い出の人でも、そうでない人でも、「初恋りんご風呂」はりんごの甘酸っぱい香りでリラックスできることでしょう。それだけでなく、リンゴ酸などの酸味成分が浸透して血液の流れを増進、新陳代謝を促進する効果やビタミンC、カリウム、ポリフェノール、セラミドによる保湿、美肌効果など女性にとってうれしい効能が盛りだくさんです。

取材当日は、梅雨雲空の下。「初恋りんご風呂」は荘主の富岡正樹さんから聞いた話と写真のみ。
でも、再訪を約束するほどの期待感が盛り上がりました。

文人の宿の文人風呂。スゴイ!



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posted by シマウマ-クラブ at 10:12| 長野のおすすめ