2012年12月03日

勝沼のブティックワイナリー巡り その4 ルミエールワイナリー(笛吹市)

笛吹市にあるルミエールワイナリーは、厳密には勝沼のくくりに入れてはいけないのでしょうが、実は勝沼醸造にも近く(徒歩で10分ほど)、大好きなワイナリーのひとつなのでマスト。行政的には仕方ないのでしょうが、せっかく「ワインツーリズム」によってワイナリー巡りが顕在化されたのだから、もうすこし隣町と連携して、観光案内所に広域観光的なツールを用意するなり、案内されたらいいのに、と思ったりします。甲府、山梨、笛吹、甲州、あるいは一宮と塩山のワイナリーぐらいまでは視野に入れた地図があれば、もっと便利なはず。

さてこのルミエール、創業は1885(明治18)年と、実は前回紹介の丸藤葡萄酒工業よりも古株。このあたりの名士的存在で、皇室ともゆかりが深く、地元愛飲家の間(とくに年配層)では、「ワインはやっぱりここ」という根強いファンも。そこに新風を吹き込んだのは、5代目社長の木田茂樹氏と、若き栽培醸造責任者・小山田幸紀氏。2人で渡仏した際は、醸造家を訪ねるのはもちろん、仕込みに使うフレンチオークの樽も業者任せにせず、木樽を造る会社にまで足をのばし、自らの目で現状確認をするとのこと。

ルミエール工場見学.jpg

地下貯蔵庫では中古の樽も仕込みに使われるが、仏ボルドーの五大シャトー、シャトー・マルゴーから譲り受けたものも使用。これは大変希有な例。一般には出回ることがないが、先代・塚本俊彦氏から続く長期にわたるシャトーとの信頼関係があればこそ(左上)。ペティヤンの瓶を回転させ、澱を瓶口に集める作業中の小山田さん(左下)。石蔵のワイン発酵槽で仕込んだ「石蔵和飲」(右)


日本では自然派ワインの先駆け的存在としても知られますが、その転機となったのは、1998年の雪害。ぶどうの大棚が倒壊したことで、ヨーロッパでは主流ながら、山梨では長らく難しいとされた垣根式に転換。2006年にはすべての自社畑でビオディナミを実践。契約農家の薬剤の軽減にも心を砕くなど、醸造だけにとどまらず、畑や農法への思い入れも強いのです(欧州のワイナリーでは栽培から醸造まで一環して行なれる場合が多いのですが、以前の山梨では栽培とワインの醸造は分業化され、醸造家は栽培農家から原料のぶどうを購入する、というのが一般的なスタイルでした)。

これがルミエール(フランス語で光)の自然派ワイン、光シリーズに結実。「光 甲州 2009」は、南野呂の自社畑で栽培された単一品種(甲州種100%)の完熟ぶどうを用い、フレンチオークで2年間の樽熟成を行なった限定醸造の品。

また辛口のスパークリングワイン「ルミエール ペティヤン」(甲州種100%)も、ナチュラル志向。ペティヤンとは、本来フランス語で「パチパチはねる」という意味を表し、発酵中の炭酸ガスを閉じ込めたフレッシュな発泡性ワイン。昔は造りたての新酒も、発酵中のガスや酵母が瓶内に残っていたもの。つまり素朴でより自然な造りのワインでもあります。かつてワインツーリズムの最中も作業中だった小山田さん、1次発酵中に仕込むので、大量に澱が出るのですが、小山田さんはその澱を瓶口に集める作業を1本1本手作業で行なっていました(8000本を仕込む)。ちなみに、これからクリスマスにかけては「ペティヤン ロゼ」で盛り上がるのもおすすめです。

国の登録有形文化財でもある、花崗岩で造られた地下式石蔵発酵槽(左上)「光 甲州2005」と「ボンシェフ」(左下)。元はセメントタンクだったワインセラー(右下)
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ルミエールゼルコバ.jpg

暖炉と高い天井が落ち着いた大人の空間といった雰囲気を醸す、ワイナリーレストラン「ゼルコバ」(左)ショップの右手には試飲用のカウンターと、奥にはルミエール創業以来の資料が展示されるコーナーも(右)

そんなルミエールですが、今回は併設のワイナリーレストラン「ゼルコバ」が目当て。勝沼醸造直営のレストラン「風」や、元銀座レカン在籍の名ソムリエ・五味丈美さんが開いた「ビストロ・ミル・プランタン」との間で悩んだのですが、ここはワインが蔵出し価格というのが決め手(飲んべえゆえんです。笑)

ぶどうの葉に盛られたアミューズに始まり、チーズ、くるみ、りんごをちりばめ、道志村の清流で育ったクレソンの苦みが効いた健味鶏のサラダ、県産の豚バラ肉を自社の赤ワインに3週間以上も漬け込んだ、風味豊かな自家製ワインベーコンとキノコの煮込み、完熟トマトのソースにバジルが明確なアクセントとなり、イタリアンな味わいの甲斐サーモンのポワレと滑らかなポテトのピューレ、市川三郷町特産の大塚にんじん、ごぼうやさつまいもなど、大地の味がする野菜が添えられた、甲州牛をぶどうの葉で包んだロースト。さらにデザートまで、最後まで残さずフルコースを平らげたのは久しぶり。これでサービス料込み5000円なら納得です。

ディナーの場合、別途サービス料を取るのはザラですが、サービス料込みでかつきちんとしたサービスが受けられたので、その点も好感がもてました。さらに、料理に合うグラスワインも各皿の横に示されているので、その通りお任せにしてもリーズナブル。普通のフレンチでそんなことをすると、ワインの価格にビクビクしてしまいますが、ここは蔵出し価格なので安心です。

ゼルコバ料理.jpg

地元産の素材を用いて「ヤマナシ・フレンチ」と銘打った、メニュール・ミエール11月の料理。味付けは濃すぎず、油控えめなので重くもなく、かつ素材の味がしっかりと出ている。一皿のポーションも多くない(かといって少ないわけでもない)ので、女性でも完食できる


同社の代表銘柄は、ボルドー・スタイルの「シャトー・ルミエール」ですが、この日の料理に合わせて出された「プレステージクラス メルロー」もなかなか。和食にも合う「レザンファン ブラック・クイーン」などと並ぶセカンドラインですが、契約栽培農家の単一品種を樽熟成させたもので、個性豊か。

また国の登録有形文化財で、1901(明治34)年築造の石蔵ワイン発酵槽で仕込んだ「石蔵和飲」も、面白いもの。仕込みは年1回行なわれ、1回で10トンもの仕込みが可能ですが、管理が大変。しかし出来上がったワインは、自分たちがコントロールできない複雑味を帯びる、とのこと。実はワインヴィネガーも造っており、これも隠れたヒット作。以前メルローを40年もの間熟成させたという「ボンシェフ」を購入しましたが、手描きのラベルもかわいい仕上がり。ワインヴィネガーは、ゼルコバのソースやドレッシングにも使われています。

ワイナリー見学は基本的に自由ながら、1日2回(10:30、14:00)行なわれる工場見学では、石蔵発酵槽や地下貯蔵庫を案内。前日までにメールまたは電話で申し込みのこと。


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posted by シマウマ-クラブ at 16:23| 山梨のおすすめ