もともと沖縄北辺は観光的にさほど注目されず、それゆえ学術的にも貴重な自然が守られてきたという側面があります。それが今や癒しの森として注目を集めていますが、まだまだ原始性が保たれている場所があります。それが、国頭村(くにがみそん)の東海岸に位置する安波(あは)地区。
かつてこの集落には、川沿いの急斜面に茅葺きの家が階段状に建ち並び、その数は100軒近くにものぼったとか。それが過疎化や高齢化により、共同で茅を葺く作業ができなくなり、90年代を最後に茅葺きの住宅はすべて姿を消したとのこと。また安波川と普久川が合流する河口には、津(河港)があり、近世末期から昭和30年代までは山原船と呼ばれる舟運も盛んで、沖縄の中南部とも交流がありました。背後にあるやんばるの豊富な森林資源が、建築材料や燃料の薪や炭となり、この舟運を使って運搬されていたわけです。
安波という地名も、諸説ありますが、一説には浦添地方の安波茶からその名があるともいわれ、浦添から船でやって来た人々が集落を開いたともいわれます。そんな背景もあり、独自の民謡・安波節をはじめ、他の山原の地域とはやや異なる文化的土壌があったわけですね。
そんな安波ですが、現在交通の便からいっても、訪れる人はそう多くありません。ただやんばるの自然を堪能したい人にとって、その原始性の高さは魅力。なかでもやや秘境的雰囲気を醸すのが、タナガーグムイの植物群落です。タナガーグムイとは、エビが棲む川の淵を意味し、それ自体は普久川中流域の小さな滝壺にすぎませんが、周囲をイタジイ(スダジイ)の原生林に囲まれ、リュウキュウアセビ、アオヤギソウなどが自生する特殊な植生は、国の天然記念物にも指定されているほど。
ただ滝壺までは、県道70号を100m少々入った駐車場から足場が悪い場所を下るので、しっかりした足ごしらえが必要です。とくに雨後は土や岩がすべりやすいので、要注意。転落事故、水難事故にはくれぐれも注意が必要ですが、たどり着いた時には、静寂に包まれたその淵に、なんともいえない神秘的なムードを感じます。
密林のなかに神秘の淵が姿を現す、安波のタナガーグムイ
2013年02月21日
沖縄・やんばるの森散策(4) 安波のタナガーグムイの植物群落
posted by シマウマ-クラブ at 11:00| 沖縄のおすすめ