2013年11月08日

坐来大分で「世界農業遺産」認定記念イベントを開催(3) 阿蘇のあか牛生産者も熱い!

大分との県境、阿蘇外輪山の北東に位置する産山村(うぶやまむら)。阿蘇の固有種・ヒゴタイがシンボル的存在ともなっている村ですが、ここにまた素晴らしい畜産家がおられた。それが阿蘇の在来種、あか牛を育てる井信行さん。くまもと『食』の大地親善大使でもある宮本シェフが「あか牛の神様」と呼ぶ方です。

井信行さん.jpg

阿蘇環境デザイン策定委員会の委員も務める井信行さん

その井さんいわく「日本の牛肉は霜降り肉でランク付けされるので、黒牛(黒毛和種)の方が上とされ、赤牛(褐毛=あかげ和種)が少なくなってきた。ところが最近赤牛が食べたいという志向が高まり、やっと注目されるようになってきました」

「今日本では、80%が外国飼料を使用しています。でもせっかく赤牛を育てるのなら、私は阿蘇の草原をいかした100%国産のものを作りたいと思っています。しかしそれには問題点があるのです」とのこと。

問題点とは? と尋ねると「(地域循環型農業という観点から言うと)主原料は阿蘇の草原の草となるわけですが、これだけでは(24ヶ月から30ヶ月の出荷時期までには)体が大きくならない。若い肉(つまり柔らかいサシ=脂肪入りの肉)がいい、というのが今の日本ですから」と井さん。

うーん、要は採算ベースの問題か。長いタームで育てれば、草だけでも充分に大き育てることができるあか牛も、まだ若いうちに市場原理に放り込まれるのが実情。それが和牛肉業界の評価基準。つまり穀物飼料を極力抑え、草だけ与えていても育つことは育つが(日本人の嗜好に合わせた業界的な)売り時には間に合わない、ということなのでしょうか。





それが日本人好みなのだから、仕方ないといえば仕方ないのでしょうが「こうしたやり方は、本来牛にとっても良くない。実は牛の胃も痛んでいるんです」と井さん。

うわー、促成するための配合飼料によって胃が弱っている牛を食べるのって、何だか本末転倒的な気が。放牧先の広々とした草原を歩き回ってミネラル豊富な草を食み、阿蘇の湧水で健康に育った牛の方が、どうみても人間にも良さそう……。

阿蘇あか牛放牧風景.jpg

阿蘇の広大な草原で、のびのび育つあか牛たち

というか、そもそも個人的には断然赤身肉派。むしろサシ入りの方が苦手。赤身肉ならわずかな塩だけで量もいけるが、サシ入りは薄切り1枚程度でギブ。一部の地域を除き、日本では未だに牛肉が「ハレの食」だからか。

たまのごちそうに位置づけられてきたからこそ、サシ信仰が生まれたのか。肉食文化の人たちって、たとえばイタリアのキアーナ牛にしても、赤身肉が基本。じゃないと毎日食べられない、胃にもたれちゃって(そもそも狩猟民族とは消化酵素から違うけど)

でも「日本で赤身肉って、岩手の短角牛にしても知られ出したのは5年前くらいから。阿蘇のあか牛なんてここ2年ぐらい」とは宮本シェフの弁。そうですねぇ、実際に今日お2人にお会いするまで、たぶん阿蘇のあか牛は食べたことありませんでした(__;)

あか牛と国東産しいたけを使ったひと皿.jpg

試食用に登場した井さんのあか牛は、宮本シェフの火入れ技術もあるのだろうが、短角牛など他の赤味肉に比べ、適度な脂肪と肉質も意外なほど柔らかな印象で驚く

しかも熊本といえば、どうも高菜と馬肉ばかりに目を奪われがちな自分。馬肉も刷り込み現象で、多くがカナダ産熊本育ち(熊本産だけじゃ到底これだけの需要をまかないきれませんて)であるということを、随分前から馬肉屋さんに聞いてはいたものの、ついつい……。しかーし、これからはもっと足もとの食材に目を向けなくては。

実は宮本シェフも、8年にも渡るイタリア生活からの帰国後、最初は熊本でも地元の食材が手に入らず大変だったとか。

「テンダ・ロッサのオーナーに“農家を守るのがレストランの義務”とまでいわれたことを、今も強烈に覚えています。でも日本では農業の情報って少ない」と宮本さん。それで自ら農家に足を運ぶようになり、今では50軒以上もの生産者と付き合いがあるのだとか。

そうですよね、イタリアも都会では徐々にスーパーが主流になってきましたが、田舎に行けばまだまだ町の小売店や露天の市場が健在。野菜でも味や香りが強いもの、土着品種が簡単に手に入る彼の地に比べると「食の大地・くまもと」といえども例外ではなかったか。

しかし熊本で10年以上も地産地消の活動を続け、地元の生産者と付き合うようになって「食べることがどうやって農家を守っていけるのか」「都市と農村の交流とは」と考えるように。「これからは、ただおいしいものを食べるのではなく、おいしく食べることが大事」とも強調しておられました。

「おいしく食べる」とは、自分から情報や知識を得て食に関するリテラシーも上げていこう、という意味だとか。しかしまずは手始めに、熊本にある宮本シェフの店に行きたい……。キャンティもアルト・アディジェもいいところですが、当方日本では反主流派のバジリカータ好きでありまして。しかしバジリカータの料理を食べられるところが日本にもあるなんて、知らんかった(O_O)
(つづく)

南阿蘇白川水源.jpg

阿蘇カルデラ南側の谷が南郷谷。その南郷谷にある白川水源は阿蘇中央火口丘の伏流水で、熊本市内を流れる白川の源流。流域一帯の水がめとして、地元では戦前から環境保全に取り組み、この湧水を利用した有機減農薬栽培の米作りも行なってきた。宮本シェフも「熊本では蛇口をひねったらミネラルウォーターという環境で、阿蘇だけで地域循環ができるんです」と語る。ちなみに県では熊本の農業、農産物を応援し旬の情報を届ける「くまもとサポーター」も募集中

やまなみハイウェイ城山展望台.jpg

やまなみハイウェイ・阿蘇側の入口に位置する城山展望台。阿蘇カルデラの外輪山の一角にあり、眼下に一の宮地区の田園風景、その先に阿蘇五岳を眺望。近くの崖には縄文時代の遺跡もあるが、これは阿蘇のカルデラ湖に水が引き始めた時代に、ここに住んだ縄文人の遺跡。展望台から眼下に広がる田園風景は、まさに古代からの歴史が脈々と息づいている地でもある



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posted by シマウマ-クラブ at 17:36| 九州のおすすめ