2014年03月04日

ひなまつりの流し雛と柳川さげもんめぐり

明かりをつけましょぼんぼりに、お花をあげましょ桃の花。
今日は楽しいひなまつり♪

って、終わっとるやないかい! と怒らんとって下さい(^◇^;)

ひなまつりケーキ.jpg

シャトレーゼで買ったひなまつりシフォンケーキ。男雛が左なので関東風?

ご存じの方も多いとは思いますが、近年全国的にも町おこしの一環として、ひなまつりイベントが盛ん。

もともと旧暦3月3日のお祭りなので、山梨県甲州市の「えんざん桃源郷ひな飾りと桃の花まつり」など、4月までやっているところが結構あるのでお許しを。

そのルーツは、中国の禊祓「上巳(じょうし)」。初めの巳の日、つまり季節の変わり目に邪気が来るとされ、これを祓うのが主眼。

そこにさまざまな行事風習が渾然一体となり、江戸時代には幕府によって3月3日が「五節句」のひとつに定められたことから、庶民の間にも定着していったとか。

また奈良平安の宮中で行なわれていたという歌詠みの行事「曲水の宴」もルーツのひとつ。古式にのっとったものは、福岡の太宰府天満宮など、各地で見ることができます。

これに平安貴族の雛(ひいな=人形)遊びなどが加わり、人形飾りへと発展していくわけです。が、改めて思い知らされるのは、ひなまつりは人形を飾るものという自分の固定観念。

太宰府天満宮曲水の宴.jpg

太宰府天満宮で行なわれる禊祓えの神事「曲水の宴」

実は、一方で人形には穢れを祓うための「ひとがた」的役割を負わせる比重が大きい地域もあり、これが女児の初節句にあたって健やかな成長を願う「ひな流し」「流し雛」へとつながっていきます。

この流れは桃の花がもつ意味についても同様ですが、以前書いたので省略。要は桃も厄払いの道具であり、それが転じて無病息災や長寿のラッキーアイテムとなるわけで。




それにしてもこの流し雛、自分の故郷では見られなかったのでことさらに興味があります。現代の感覚では人形は玩具や観賞用。それを愛玩目的ではなく身代わりの「ひとがた」、形代として活用し、さらにそれを水に流すという発想。

穢れを流す禊、垢離(湯ごり、水ごり)も同じような考え方でしょうが、それを人間の身代わりに人の形をした紙で代用させようという発想がすごい。

あ、すでにこの発想がダメなのか。古代中世の人にとっては逆なんだから。人形だって今みたいに立派になるのは江戸時代だし。しかしこれ海に流すのは当初陰陽道のようですが、浄土信仰まで入ってくるのでしょうか。

流し雛.jpg

もちがせ流しびな.jpg

鳥取県の用瀬では例年旧暦の3月3日、ワラで編んだ小舟に、一対の紙雛と桃の小枝や菱餅などをのせて千代川に流す

しかし節分の時に出て来た鬼も、いうてみれば身代わり、シンボル化されたもの。そんなことをいえば、富士塚、仏像、お札から何からそうなるけれども、これらはいかにも霊験あらたかな感じだしなぁ。

人形やお面だと、今とはちょっと扱われ方がかけ離れている分、気がつきにくい。宗教的なことから離れて民芸品や郷土玩具などとしても流通し、観賞用、愛玩用になったものもあるから、当然といえば当然なんだろうけれども。

ものごとを何かに見立てるとは、身代わりというか、追体験ってことなんでしょうね。昔の人はすごいなぁ。

で、雛流しの古式系のものは和歌山市加太の淡嶋神社ですが、これは毎年新暦の3月3日にやっているので既に終了。

これから見られるものとしては、鳥取市用瀬の「もちがせ流しびなの館」周辺で行なわれる「流しびな行事」。2014年は4月2日(水曜)の10:00からで、当日流し雛を購入すれば「流しびな体験」も可能。

柳川さげもん.jpg

柳川雛祭りさげもんめぐりの会場で見られる目にも鮮やかな「さげもん」。さげもんとは、「吊し雛」のこと。藩政時代の柳川では、女の子が生まれた時、親戚や知人から贈られた着物の端切れで、健康と幸せへの願いを込めて、縁起のよい鶴や兎など手作りの布細工と柳川地方伝統の大まりを吊したという

また流し雛がメインではありませんが、壮観なのが福岡県柳川市の「柳川雛祭りさげもんめぐり」。2014年は2月11日(火曜・祝日)から4月3日(木曜)までで、沖端水上ランタン雛めぐり舟運航など、期間中さまざまな行事が行なわれます。

なかでも注目は、3月16日(日曜)の「おひな様水上パレード」。水上に飾られた「さげもん」の中を、お内裏様やかわいい稚児たちが雅に舟で進む水上パレード(沖端〜三柱神社)は、実に絢爛豪華。

またせっかく水郷のまち・柳川を訪れたなら、旧城下に張り巡らされた堀と白壁や赤レンガの街並みをくぐる川下りはぜひとも体験を。川下りの終点にある若松屋は、食通で知られた檀一雄も贔屓にした鰻の名店。ふんわりとしたうなぎのせいろ蒸し、一度は味わいたい逸品です。



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2014年01月07日

福岡市の十日恵比須神社で「正月大祭」

明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

さて、新年最初の話題は2014年1月8日(水曜)〜1月11日(土曜)まで、福岡市東公園隣接の十日恵比須神社で行なわれる「正月大祭」。

この「正月大祭」、さかのぼること天正年間の正月、香椎宮・筥崎宮の初詣の帰りに浜で拾った2体の恵比須像を祀ったことがその起源。やがてその評判が広がり、毎年正月十日に商売繁盛を祈願する祭りへと発展。今では年明け1発目、商人の町・博多が活気づく新春の風物詩となっています。

十日恵比須1.jpg


まずは8日の「初えびす」。10:00〜11:00に福引きが実施され、当選者には福笹とともに授与品として張子の福起こし、米俵、干支、金蔵、そろばんなどが渡されます。年中祈願祭で新春の縁起かつぎ。

9日は「宵えびす」。10:00〜深夜0:00に開運殿で開運御座(かいうんおざ=新春の縁起を祝う儀式)、9:00〜翌朝6:00に福引き、9:00〜深夜0:00に年中祈願祭が行なわれます。また15:00頃(神社到着時間)には、下の写真のように正装した博多芸者が参拝する「かち詣り」(徒歩詣り)の見学も可能です(出発は東公園入口)。

十日恵比須3.jpg


10日は「正大祭」。10:00〜深夜0:00に開運殿で開運御座(参加者多数の場合、早く終了の場合あり)。 6:00〜深夜1:00まで福引き。9:00〜深夜0:00に年中祈願祭。

11日は「残りえびす」で、9:00〜14:00頃(授与品がなくなり次第終了) に福引き、9:00〜深夜0:00に年中祈願祭が行なわれます。

十日恵比須2.jpg


ドライブなら、福岡都市高速千代ICまたは呉服町IC利用となりますが、神社には駐車場がないので、周辺の有料駐車場を利用。また期間中は例年100万人もの人出で混雑するので、なるべく公共交通機関の活用を。

今年はとくに景気回復への期待感からか、どの神社も例年にない混雑ぶり。商売繁盛・開運招福、海の守り神となる「えびすさま」のほか、昨年60年ぶりとなる「平成の大遷宮」を迎えた出雲大社から分霊された「大黒さま」も祀られており、五穀豊穣、縁結びも期待できそうです。



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2013年11月11日

坐来大分で「世界農業遺産」認定記念イベントを開催(6) 大分は素晴らしい食の宝庫なのだ!

熊本が食の大地なら、食の宝庫・大分だって負けてはいません。国東はしいたけ栽培も盛んですが、三方を海に囲まれていますから、なんてったって、漁業も盛ん。先日ジオパークにも認定された姫島のたこ(マダコ)、豊後高田の岬ガザミ(ワタリガニ)、日出(ひじ)の城下かれいなど、個人的に大好きな魚貝がめちゃ旨い。

彦摩呂風にいえば、大分は食の玉手箱や〜(しつこい)。

城下かれい.jpg

日出名産の城下かれい。暘谷城(ようこくじょう=日出城)の下で獲れることが名の由来のマコガレイで、かつては殿様しか口にすることが許されなかったというほど、食通をうならせる逸品

で、イベント当日に登場したメニューも国東・宇佐地域の特産品を前面に押し出したもの。まずは国東干し椎茸の旨煮とぜんまいどぶろく和え、宇佐・院内産のはんざき柚子をのせ、みとり豆をもち米で蒸したおこわ、豊後高田のおべん柿を落花生で和えた柿なますなど、手の込んだ先付け・前菜から。

みどり豆飯蒸し.jpg

宇佐特産のみとり豆(ささげ)をおこわにし、院内のはんざき柚子をのせたみとり豆飯蒸し。みとりおこわは、宇佐地方の仏事や初盆に食され、宇佐神宮の例祭時にも供される郷土食






また試食では、いまや全国区となった近隣・佐賀関の関アジ、関さば、ぶりなど、豊後水道の幸をしょうゆベースのたれに漬け込み、ごまやネギなどの薬味をたっぷりのせて味わう、郷土料理のりゅうきゅう。さらには食後のデザートとして、茶処・杵築(きつき)のほうじ茶を使った濃厚なプリンも美味でした。

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大分を代表する漁師料理のひとつ「りゅうきゅう」。あつあつのご飯にかける豪快な料理

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杵築産ほうじ茶の風味も豊かで濃厚な、ほうじ茶プリン

これらはいずれも銀座にある坐来大分で「世界農業遺産」のコース料理として用意。世界農業遺産認定地域の旬の食材をメインに、坐来の店長兼総料理長・梅原陣之輔さんが考案したもの。梅原さんは大分県日田市出身で、日本料理の名門・京都のたん熊北店で修業した正統派。農林水産省認定の料理マスターズ第2回受賞者でもあります。

しかし東京に居ながら食を通じて、国東・宇佐に思いを馳せることができるとは、素晴らしい趣向。ちなみに魚ばかりではなく、アラカルトでは「豊後牛」のリブロースグリルや中津の「耶馬溪黒豚」、豊後高田の「豊のしゃも」など、大分が誇るブランド牛や黒豚、地鶏が味わえます。

また飲み物に関しても、日本酒や焼酎はもちろん県内産ですが、宇佐の安心院(あじむ)には安心院ワイナリーもあり、こちらの地ワインや炭酸パワー炸裂の白水鉱泉の炭酸水なども食事とともに楽しめます。しかも普通のお水にもかぼすの輪切りが惜しみなく使われており、なんとも爽やかな贅沢。

この坐来大分は、大分県のアンテナショップ的役割もあり、同じフロアには大分の観光情報などが手に入る「銀座おおいた情報館」も入居。食事の前後に立ち寄って、気に入った地域に関するパンフレットなどを集めることもできますので、ぜひ活用を。

銀座坐来大分.jpg

坐来大分の店内.jpg

東京・銀座2丁目にある坐来大分。大分のフラッグショップとしての役割もあり、店内入口は県内各地の日本酒・焼酎をディスプレイ。天然かぼすにゆずこしょう、佐伯のごまだし、日田の鮎魚醤など、さまざまな特産品の販売も。また店内には日田杉の飾り棚や椅子、テーブルを使用するなど、インテリアにも大分の風土が息づく





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2013年11月10日

坐来大分で「世界農業遺産」認定記念イベントを開催(5) 六郷満山文化のお膝元で中世の荘園が息づく

前回、大分の世界農業遺産認定には「六郷満山」もキーワードと記しましたが、ではその六郷満山とはなんぞや?

これは円形火山のほぼ中央に位置する両子山から、放射状に広がる谷筋を、武蔵、来縄(くなわ)、国東、田染(たしぶ)、安岐、伊美の6つの郷にわけ、これを六郷と称し、この地に開かれた天台宗寺院全体を総称し「六郷満山」と呼ぶもの。

718(養老2)年、伝説の僧・仁聞(にんもん、人聞とも)が、修行のため国東半島各地に28の寺院を開山。これが全国八幡の総本社・宇佐神宮の庇護のもと、奈良から平安時代にかけて神仏習合の独特の寺院集団と信仰が形成され、往時には半島一帯に本山、中山、末山の3群65の寺院を有したとか。

つまり、国東半島全体が六郷満山仏教文化圏を形成しているわけです。

熊野磨崖仏.jpg

熊野磨崖仏は、平安時代の作と推定される古い石仏で、国の重要文化財

現在でも、33の寺院と番外に宇佐神宮を加えた 「国東六郷満山霊場」(六郷満山三十三ヵ寺)を構成。別名「ほとけの里」といわれる文化圏となっています。一帯では、真木大堂、熊野磨崖仏などの文化財と、それを包み込む奇岩と秀峰を見上げる異色のドライブが楽しめます。

そんな独自の神仏習合の文化が発達した国東半島・豊後高田市には、中世の荘園が残されています。それが「田染荘(たしぶのしょう)」。

小崎川左岸の台地に広がる田染荘小崎(おさき)地区は、11世紀前半、新たに開墾された水田。当時は宇佐神宮のもっとも重要な荘園「本御荘十八箇所」のひとつとして、全国屈指の規模を誇りました。この時代、有力な荘園主は天皇家や貴族、寺社であり、それが力の源泉でもあったわけです。

豊後高田市田染荘.jpg

ゆるやかな傾斜の棚田が広がる背後の山に、雨水の涵養林となるクヌギも植林された田染荘小崎。もとは、赤迫地区にある雨引社前から湧き出る湧水を利用して新田開発が始まったと伝わり、水神さまとして鳥居が祀られている。ほかにもいくつか水源があり、鎮守の森や磨崖仏と水源の関係も興味深い。また田んぼの形が一枚一枚不揃いなのも特徴的。水の便や扇状地形を考慮した開墾の進め方が、往時を彷彿とさせる


時代とともに景観を変えることが多い現代にあって、地名、地割、水路が、中世とほぼ変わぬ状態で今も保たれているのは奇跡的。現在ここは「田染荘小崎の農村景観」として、国の重要文化的景観にも選定されています。

大分県農林水産企画課の加藤正明さんによれば「六郷満山文化が農業や水のリサイクルにも関わっている」とのことですが、国東半島の六郷満山と中世の荘園が、世界農業遺産となった農業システムに、どう影響しているのでしょうか。

「(国東はもともと水の乏しいエリアだが)実は大分では臼杵にしても熊野にしても、“磨崖仏のあるところに水あり”といわれていますから」と加藤さん。なるほど。湧水の恩恵を受けられる水源近くに人が住みつき(これを神仏として祀り)、農業が発達したわけですね。「もちろん修行僧も、水や糧を得る必要がありますし」とも。




つまりは、古代から続く自然発生的なムラの開墾(縄文時代の遺跡も残る)が、中世田染郷の村落・荘園の発展へとつながり、扇状地形を利用した上から下へ流れる水路や堰、ため池など、他と連結した灌漑システムが構築されていくわけですね。深い!

しかも宇佐・国東では御田植祭や修正鬼会(しゅじょうおにえ)、村落単位の雨乞いなど、神仏習合文化の影響を受けた農業に関する神事、伝統行事が今も受け継がれています。これは六郷満山と切っても切れない関係といえましょう。
(つづく)

豊後高田市田染荘御田植祭.jpg

田染荘小崎で行なわれる御田植祭。これは毎年6月第2日曜に「荘園の里推進委員会」が主催するイベントで、田植え交流会は「飛び入り参加大歓迎」とのこと。現在一帯を「荘園の里」と称し、景観保持のため毎年荘園領主(水田オーナー)を募集。案山子コンクール、収穫祭などのイベントや農作物の宅配も行なっている。また農家に泊まって農作業や田舎暮らしを満喫できる、グリーンツーリズム「農家民泊」も実施

豊後高田市天念寺修正鬼会.jpg

長岩屋山天念寺の「修正鬼会」。天念寺は六郷満山中山本寺のひとつで、718(養老2)年に仁聞の開基と伝わる古刹。ここの修正鬼会は旧正月の伝統行事で、奈良時代から伝わるものと推測。節分のように「鬼を追い払う」のではなく、「鬼に姿を変えた祖先を出迎える」、「祖先と楽しく過ごす」といった国東半島独特の考え方で行なわれるもの。災払鬼、荒鬼が講堂内で松明(たいまつ)を振り回し、見物客の背中や肩を叩き回る。これが無病息災につながるとされている

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豊後高田市の夷谷(えびすだに)。別名「夷耶馬(えびすやば)」とも呼ばれる景勝地だが、国東ではご覧のような鋭い岩峰がいくつも林立し、そこが山岳信仰・修験道の霊場となった。このような自然の造形が、おびただしい数の岩窟や密教道場を生み、それが宇佐神宮の八幡信仰とも結びつき、独自の六郷満山文化圏となった。自然が信仰の対象となった結果、植生、生物多様性、景観も守られているというサイクル

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2013年11月09日

坐来大分で「世界農業遺産」認定記念イベントを開催(4) 水とクヌギのリサイクルが生んだ日本一の原木しいたけ

大分県が「世界農業遺産」(GIAHS:ジアス)で認定された「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」。こちらもなにやら難しそうですが、要するに水が乏しく稲作には向かない地域だからこそ生まれた先人たちの智恵と創意工夫が、長い年月を経ても失われることなく受け継がれてきた、ということのようです。

そのキーワードは「クヌギ林」と「ため池」。そして「循環型農業」。

国東半島のクヌギ林.jpg

国東・宇佐地域では、原木しいたけのほだ木や燃料として盛んに植林され、今では森林全体の11%を占めるというクヌギ林。15年サイクルで再生され続けている


それにはまずこのエリアの地理的条件を少々。大分県北東に突き出た円形の国東半島は、実は全体が一つの火山。中央に聳える標高721mの両子山(ふたごやま)から海岸へと放射状に広がる28の谷を6つの里に分けて六郷と称し、この地に発達した独自の神仏習合の文化を「六郷満山」と呼んでいます。この「六郷満山」も、もうひとつのキーワードですが、これはのちほど。

日本最大規模の単一の火山からなる国東半島は、中央の山から急激に海に落ち込む地形と火山性の土壌のため、水の確保が困難。しかもそもそも降水量が少なく、さらには平地も乏しい、とないない尽くし。

そんな地形的・気象的にも厳しい自然環境のもと、生み出された工夫がクヌギの再生利用とため池の活用。大分県農林水産企画課加藤正明さんによれば「阿蘇は野焼きですが、国東は“水”をうまく活用すること」が肝。「しいたけ栽培に利用するクヌギ林が水をたくわえ、ため池を水田に利用する」ことで、クヌギとため池による水と森のリサイクルが起こっているわけです。

この耕作に不向きな土地で貴重な保存食、換金作物となったのが、乾しいたけ。原木しいたけというと椎葉村など宮崎県も有名ですが、乾しいたけの生産量では大分県が全国シェア42%とダントツの日本一。なかでも国東半島産の原木しいたけは、質も高く、高値で取引されているのだとか。

大分産どんこ.jpg

乾しいたけのなかでも肉厚で最高級の大分産どんこ。とくに国東産は低温菌品種で時間がかかり、発生率も低いため量はとれないが(つまり効率が悪い)、ゆっくりと育つためうまみ成分も多く、高品質・高単価のものができる






そのカギが、しいたけ栽培の原木に最適なクヌギ。もともと国東半島にはクヌギの原生林があったのでこれを利用したまで、といってしまえばそれまでですが、決してほったらかしではない。この林に人の手を入れ、きちっと管理している、つまり維持管理された里山であるところが重要。

「クヌギは成長が早く、伐採しても周りの下草を刈るなど管理をしっかりしていれば、15年で再生されます。これにより常に森が維持されているのです」と加藤さん。

同時に落ち葉や腐植した原木が保水、雨水の涵養機能を果たし、これがため池にも流れ込む(川を通じて海にもそのミネラル分が流れ込む→植物性プランクトンが増える→これを餌にする魚が集まる→いい漁場が生まれる、と沿岸漁業にとっても好都合)。

国東市松ヶ迫池.jpg

国東市にあるため池、松ヶ迫池。ため池の上部にはクヌギを植林。水は農業用水としてはもちろん、貴重な水生生物の棲み家にもなっている

このため池も、平地が乏しいために大規模化できなかったことから、その数1200にも及びます。これを扇状地形を利用した水路で結ぶことで、少ない水資源を効率よく再配分。「数が多いのは(他の地域)どこでもありますが、ため池同士を連携させたのがミソ」とは、加藤さんの弁。

ため池の水は、水田やしいたけ栽培の散水にも利用され、ぐるぐると循環。クヌギの森も営々と新陳代謝を繰り返しているわけです。

森林が食料を生み、しかもこれが貴重な里山景観の保全と、オオサンショウウオやカブトガニ、アカザなど、多様な水辺の生態系を残すのにもひと役買っている。なるほど、これぞまさに地域で完結した「循環型農林水産業システム」ですね。
(つづく)

国東市綱井地区のため池連携図.jpg

国東市綱井(つない)地区にあるため池群の連携概念図。いちばん上流に位置する高雄池から、中下流域の美迫(みさこ)池など、合計6つのため池が連携するという、当時としては画期的な用水供給システム。天候や稲の成長過程に合わせて、各ため池にどれだけの水量を供給するかを、相互のため池で補いながら維持管理している。各用水路に蓋をせず開口状態にすること、また取水口の操作や管理をする代表者を「池守り」として選び、集落ごとに代々そのシステムを継承し続けることで、江戸時代から貴重な水の選択と集中、公平な再配分が行なわれてきた

原木しいたけのほだ木.jpg

しいたけの発生に適した「ほだ場」に移された、原木しいたけの「ほだ木」。通常しいたけ栽培というと、杉林などのうっそうとしたイメージだが、加藤さんによれば「高品質なものができるのは、落葉広葉樹と常緑樹の混じった適度に明るい場所」とか。国東には、このような広葉樹林の「明るいほだ場」とため池を利用した散水が、質量ともに日本一の原木しいたけを生み出している
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2013年11月08日

坐来大分で「世界農業遺産」認定記念イベントを開催(3) 阿蘇のあか牛生産者も熱い!

大分との県境、阿蘇外輪山の北東に位置する産山村(うぶやまむら)。阿蘇の固有種・ヒゴタイがシンボル的存在ともなっている村ですが、ここにまた素晴らしい畜産家がおられた。それが阿蘇の在来種、あか牛を育てる井信行さん。くまもと『食』の大地親善大使でもある宮本シェフが「あか牛の神様」と呼ぶ方です。

井信行さん.jpg

阿蘇環境デザイン策定委員会の委員も務める井信行さん

その井さんいわく「日本の牛肉は霜降り肉でランク付けされるので、黒牛(黒毛和種)の方が上とされ、赤牛(褐毛=あかげ和種)が少なくなってきた。ところが最近赤牛が食べたいという志向が高まり、やっと注目されるようになってきました」

「今日本では、80%が外国飼料を使用しています。でもせっかく赤牛を育てるのなら、私は阿蘇の草原をいかした100%国産のものを作りたいと思っています。しかしそれには問題点があるのです」とのこと。

問題点とは? と尋ねると「(地域循環型農業という観点から言うと)主原料は阿蘇の草原の草となるわけですが、これだけでは(24ヶ月から30ヶ月の出荷時期までには)体が大きくならない。若い肉(つまり柔らかいサシ=脂肪入りの肉)がいい、というのが今の日本ですから」と井さん。

うーん、要は採算ベースの問題か。長いタームで育てれば、草だけでも充分に大き育てることができるあか牛も、まだ若いうちに市場原理に放り込まれるのが実情。それが和牛肉業界の評価基準。つまり穀物飼料を極力抑え、草だけ与えていても育つことは育つが(日本人の嗜好に合わせた業界的な)売り時には間に合わない、ということなのでしょうか。





それが日本人好みなのだから、仕方ないといえば仕方ないのでしょうが「こうしたやり方は、本来牛にとっても良くない。実は牛の胃も痛んでいるんです」と井さん。

うわー、促成するための配合飼料によって胃が弱っている牛を食べるのって、何だか本末転倒的な気が。放牧先の広々とした草原を歩き回ってミネラル豊富な草を食み、阿蘇の湧水で健康に育った牛の方が、どうみても人間にも良さそう……。

阿蘇あか牛放牧風景.jpg

阿蘇の広大な草原で、のびのび育つあか牛たち

というか、そもそも個人的には断然赤身肉派。むしろサシ入りの方が苦手。赤身肉ならわずかな塩だけで量もいけるが、サシ入りは薄切り1枚程度でギブ。一部の地域を除き、日本では未だに牛肉が「ハレの食」だからか。

たまのごちそうに位置づけられてきたからこそ、サシ信仰が生まれたのか。肉食文化の人たちって、たとえばイタリアのキアーナ牛にしても、赤身肉が基本。じゃないと毎日食べられない、胃にもたれちゃって(そもそも狩猟民族とは消化酵素から違うけど)

でも「日本で赤身肉って、岩手の短角牛にしても知られ出したのは5年前くらいから。阿蘇のあか牛なんてここ2年ぐらい」とは宮本シェフの弁。そうですねぇ、実際に今日お2人にお会いするまで、たぶん阿蘇のあか牛は食べたことありませんでした(__;)

あか牛と国東産しいたけを使ったひと皿.jpg

試食用に登場した井さんのあか牛は、宮本シェフの火入れ技術もあるのだろうが、短角牛など他の赤味肉に比べ、適度な脂肪と肉質も意外なほど柔らかな印象で驚く

しかも熊本といえば、どうも高菜と馬肉ばかりに目を奪われがちな自分。馬肉も刷り込み現象で、多くがカナダ産熊本育ち(熊本産だけじゃ到底これだけの需要をまかないきれませんて)であるということを、随分前から馬肉屋さんに聞いてはいたものの、ついつい……。しかーし、これからはもっと足もとの食材に目を向けなくては。

実は宮本シェフも、8年にも渡るイタリア生活からの帰国後、最初は熊本でも地元の食材が手に入らず大変だったとか。

「テンダ・ロッサのオーナーに“農家を守るのがレストランの義務”とまでいわれたことを、今も強烈に覚えています。でも日本では農業の情報って少ない」と宮本さん。それで自ら農家に足を運ぶようになり、今では50軒以上もの生産者と付き合いがあるのだとか。

そうですよね、イタリアも都会では徐々にスーパーが主流になってきましたが、田舎に行けばまだまだ町の小売店や露天の市場が健在。野菜でも味や香りが強いもの、土着品種が簡単に手に入る彼の地に比べると「食の大地・くまもと」といえども例外ではなかったか。

しかし熊本で10年以上も地産地消の活動を続け、地元の生産者と付き合うようになって「食べることがどうやって農家を守っていけるのか」「都市と農村の交流とは」と考えるように。「これからは、ただおいしいものを食べるのではなく、おいしく食べることが大事」とも強調しておられました。

「おいしく食べる」とは、自分から情報や知識を得て食に関するリテラシーも上げていこう、という意味だとか。しかしまずは手始めに、熊本にある宮本シェフの店に行きたい……。キャンティもアルト・アディジェもいいところですが、当方日本では反主流派のバジリカータ好きでありまして。しかしバジリカータの料理を食べられるところが日本にもあるなんて、知らんかった(O_O)
(つづく)

南阿蘇白川水源.jpg

阿蘇カルデラ南側の谷が南郷谷。その南郷谷にある白川水源は阿蘇中央火口丘の伏流水で、熊本市内を流れる白川の源流。流域一帯の水がめとして、地元では戦前から環境保全に取り組み、この湧水を利用した有機減農薬栽培の米作りも行なってきた。宮本シェフも「熊本では蛇口をひねったらミネラルウォーターという環境で、阿蘇だけで地域循環ができるんです」と語る。ちなみに県では熊本の農業、農産物を応援し旬の情報を届ける「くまもとサポーター」も募集中

やまなみハイウェイ城山展望台.jpg

やまなみハイウェイ・阿蘇側の入口に位置する城山展望台。阿蘇カルデラの外輪山の一角にあり、眼下に一の宮地区の田園風景、その先に阿蘇五岳を眺望。近くの崖には縄文時代の遺跡もあるが、これは阿蘇のカルデラ湖に水が引き始めた時代に、ここに住んだ縄文人の遺跡。展望台から眼下に広がる田園風景は、まさに古代からの歴史が脈々と息づいている地でもある



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坐来大分で「世界農業遺産」認定記念イベントを開催(2) 阿蘇の野焼きとは?

熊本県では「阿蘇の草原の維持と持続的農業」が「世界農業遺産」(GIAHS:ジアス)で認定されています。そのキーワードは「野焼き」と「伝統農業による草原の維持」。なにやら難しそうですが、阿蘇ではなんと千年も前から脈々と続いた営み。

すでに平安時代に官営の牧(現在の国営牧場)があった阿蘇谷ですが、実は近年の科学調査(土中の植物珪酸体分析)により、1万3000年前から現代にいたるまでの地層中に、ススキ属のものが多量に検出。今も変わらぬ姿を見せる阿蘇の草原は、まさに「阿蘇谷の原風景」という事実がわかってきました。

阿蘇草千里.jpg

雨の後には巨大な池も出現する阿蘇の草原風景のシンボル・草千里

草原は、野焼きされなければススキが衰退することから、なんと阿蘇では1万年もの昔から野焼きが行なわれてきたと推測されます。つまり我々がいま目にする阿蘇の草原は、太古からの「原風景」でもあり、おもに農畜産業のため毎年火入れをし、連綿と維持管理し続けてきた「人為的な自然」でもあるわけです。




宮本シェフも「野焼きと焼畑の違いは、ずっと土壌消毒を行なう形の“焼畑”とは異なり、一瞬にして焼くこと。だから地下にいる種や幼虫が死なず、何万年前もの化石が残る」「阿蘇の草原は自然のままの姿ではなく、野焼きによって保たれてきた。実はそのまま放っておくと森林化、あるいはやぶ化してしまうのです。普通は砂漠化しますが、日本はモンスーン気候なので大丈夫なんです」と解説。

ヒゴタイ.jpg

環境省の絶滅危惧種にも指定されるキク科の多年草、ヒゴタイ。原産は中国・朝鮮で大陸由来ということから、氷河期時代の生き残りともいえる。阿蘇北東に位置する産山村(うぶやまむら)にはこのヒゴタイ公園があり、例年8月から9月中旬に約5万本もの花を咲かせる


だからこれだけ野焼きを繰り返しても、オオルリシジミやヒゴタイなど、草原性の絶滅危惧種、阿蘇の固有種が失われず、今日でも阿蘇谷の原風景が守られてきたわけです。宮本さんが「阿蘇は日本最大の(生物多様性の)ホットスポットでもあるんです」と語るのも、むべなるかな。
(つづく)

阿蘇野焼き風景2.jpg

野焼きが行なわれるのは毎年2月末から3月の春先。大変な危険を伴う作業で、熟練の技が求められるが、近年では後継者不足ということもあり、地元の集落だけでなく全国から野焼きボランティアも参加。4月に阿蘇を訪れれば一面真っ黒の草原という異色の光景を目にすることになる。5月から6月にかけては緑が萌える季節。この時期放牧も行なわれ、秋には採草のため草刈り作業を実施。これを干し草にして牛馬の飼料や高原野菜などの堆肥にするという、阿蘇ならではの農業サイクル

阿蘇神社火振り神事.jpg

阿蘇市一宮の阿蘇神社で行なわれる「火振り神事」。3月の卯の期間の申の日に、参道で姫神を待って火を振る神事(国の重要無形民俗文化財)で、阿蘇の火まつりのひとつ。阿蘇神社は、その創建が神代に遡ると伝わる古社。外輪山に囲まれた阿蘇カルデラ湖を、外輪山を蹴破って農地に変えたと伝えられる阿蘇開拓の神、健磐龍命(たけいわたつのみこと)などを祀るが、阿蘇山中岳火口近くにある阿蘇山上神社は、その奥宮。平安初期から、神霊池 (阿蘇山の噴火口)に異変があるときには祈祷が行なわれてきた。また国造神社(くにつくりじんじゃ)は北宮と呼ばれ、奥宮(中岳)〜阿蘇神社(本宮)〜国造神社(北宮)はほぼ直線で結ばれる。この国造神社の「御田(おんだ)祭り」は年々の豊作を祈る農耕祭事で、阿蘇の田園風景の中を進む神幸行列は、阿蘇谷における夏の風物詩。まさに火と水、農業を司る神に祈る伝統行事も、この地に生きる人々の暮らしには欠かせない存在





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2013年11月07日

坐来大分で「世界農業遺産」認定記念イベントを開催(1) 火の国くまもとのイタリアンシェフは熱かった!

2013年5月に石川県七尾市で開かれた国連食糧農業機関(FAO)の国際会議。ここで熊本県阿蘇大分県国東半島・宇佐地域が、「世界農業遺産」(GIAHS:ジアス)に認定されました。先の2011年6月に日本では石川県能登新潟県佐渡の里山などが認定され、今年で第4回。ちなみに熊本・大分とともに、静岡・掛川の茶草場農法も選ばれており、いずれもすばらしい農業景観が保たれています。

今回はこれを記念して料理マスターズサポーターズ倶楽部が主催した「シェフズキッチン特別編 第4回世界農業遺産認定記念」PRイベントに参加。東京銀座にある坐来大分の料理長・梅原陣之輔さんと、熊本市街に店を構えるリストランテ・ミヤモトの宮本健真さんにより、それぞれの地元でもある大分・国東エリアと熊本・阿蘇の素材を用いた料理を試食。

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料理マスターズ受賞者でもある、大分県出身の梅原陣之輔さん(左)と熊本県出身の宮本健真さん(右)
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シェフズ・キッチンのイベントで当日供された特別料理






まずは試食の前に、簡単なレクチャー。正直「世界農業遺産とはなんぞや?」というレベルで誠に申し訳ないのですが、参加された方々の熱いお話をお聞きしているうちにぐいぐい引き込まれ、遅ればせながら理解が深まりました。

農林水産省によれば「近代化が進む中で失われつつある伝統的な農業・農法、生物多様性が守られた土地利用、農村文化、土地景観などを「地域システム」として一体的に維持保全し、次世代へ継承していくことを目的にスタート」し「おもに途上国に向けた支援策」でした。先進国である日本で、能登や佐渡がその認定を受けたのは異例だったことがわかります。

伝統的な農業や土地の利用法、景観の保全だけでなく、生態系を損なわず、その土地に伝わる神事・風習、文化的背景も含めた農業分野での持続的な利用、取り組みが認められた地域、というわけです。

また今回腕をふるって下さったお2人は、農林水産省により2010年に始まった料理人顕彰制度「料理マスターズ」の第2回受賞者でもあります。この制度も、今回初めて知ったぐらいで実に恐縮ですが、受賞されている方々は札幌モリエールの中道さんや神宮前ル・ゴロワの大塚さん、I岡アル・ケッチァーノの奥田さん、箱根オー・ミラドーの勝又さんなど、いずれも地方食材に強い思い入れがあり今や権威的存在。すごい賞なんですね(O_O)

こちらも維持継続という観点から、初回にブロンズ賞を授与(最大8名)。その受賞者のうち5年以上の功績が認められればシルバー賞(最大5名)に、さらに5年後にはゴールド賞(最大3名)と、徐々にステップアップするという仕組み。

で、そんな蒼々たるメンバーのなかに、今回料理を作って下さった梅原さんと宮本さんがいらっしゃるわけです。とくに熊本の宮本さんは、1975年生まれの38歳。受賞当時は36歳と、料理界のお歴々のなかでは大変にお若い。

宮本健真シェフ.jpg

イベント用の試食を調理する宮本健真シェフ


「これはミシュランみたいなものではなく、第一次産業と提携しておいしいものを提供する料理人に与えられる賞。それも1回もらったら終わりでなく、継続した取り組みを評価するシステム。ちょうど7年後(2020年)の東京オリンピックの年に、最初のゴールド賞が出るわけです」とは、宮本さんの解説。

しかも5年ごとのタームで料理人の精査・再評価を行なうわけです。これは長丁場。一朝一夕にはムリなお話。日頃から地元の生産者と深く付き合い、相互の信頼関係がなければ成り立たない話ですから、世界農業遺産の理念のひとつ、持続的な取り組みという点にもリンク。つまり両者共に、維持継続というのがミソ。

その宮本さん、なんと19歳で単身イタリアに渡り、フィレンツェ郊外のミシュラン2つ星「ラ・テンザ・ロッサ」をはじめ、イタリアの最北・オーストリア国境近くに位置するトレンティーノ=アルト・アディジェの名店でも修業したという強者。そんな吸収力抜群の時期に、イタリアのどっぷりと濃ゆい「ザ・地方料理」を体感した人物。末恐ろしすぎw

そして帰国後は東京など大都市圏を経ずに実家の山鹿、次いで熊本中心部で開業。こんな伝統文化が息づく環境に身を置いていたら、スローフードなんていわずもがな。さぞかし食と農業に対してのアンテナが高かったのでは? ましてや国連食糧農業機関(FAO)の本部はローマだしと水を向けると、実は色々と話が違っていた。料理マスターズに関しては、ある日突然店の常連さんから応募の打診があったとのこと。

宮本さんは、その時初めてこの常連さんが熊本県庁のお役人だと知ったのだとか。周囲がまだ若すぎるという理由で難色を示すなか、彼の推薦理由は「これだけ幅広く生産者のことを知っている料理人は、他にはいない」。うーん、見てる人は見てる。

その若さゆえの推進力か、阿蘇が世界農業遺産(GIAHS)の認定を勝ち取る過程においても多大なる貢献をしています。というか、実は宮本さんが言い出しっぺらしい。ある日ニュースを見てこれだ! と思い、それからGIAHSに関する膨大な資料を読み込み、その申請と評価・研究に携わる中心人物である、国連大学の武内副学長に会いたい! と直談判。

当初は懇意の生産者などとともに研究会を立ち上げ、民間レベルで様々な勉強会を幾度となく繰り返していた。やがてそれが知事にも認められ、県をあげてのバップアップ体制となった……。

この瞬間、頭の中に「情熱大陸」のテーマが。もはや料理人の枠を越えてる!? 

プレゼンする宮本健真シェフ.jpg

GIAHS全般の説明をよどみなくやってのける宮本シェフ


宮本さんいわく「阿蘇の草原は2万3000haもあり、今も伝統農法が維持されている」「火山のなかに人が5万人も住んでいるなんて世界中見渡してもありえない」「こんなに噴火が多いのに、なぜ脈々と人は住み続けてきたのだろう」「1級河川の水源が福岡、大分を含め、約240万人の人の生活を支えているんです」「農業には国土保全の目的もある」「日本の農業は伝統行事や神事、文化とも非常に密接な関係にある」

食材と食文化ならいざ知らず、現役の若い料理人で、これだけ阿蘇の農業やその文化的背景、生態系や地理歴史に数字を交えて表情豊かに語れる人は、あまりいないのではあるまいか。立て板に水のプレゼン能力は、お見事というほかない。しかも言うだけでなく、行動力、推進力ありすぎデス。
(つづく)



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2013年11月06日

九酔渓・九重""夢""大吊橋の紅葉が見頃!

九酔渓の紅葉.jpg

広葉樹に針葉樹が混じる九酔渓の紅葉


九州屈指の紅葉の名所として知られる九酔渓(きゅうすいけい)・鳴子川渓谷。渓谷には日本一の長さと高さを誇る人道の吊り橋・九重""夢""大吊橋が架かり、このゆらゆらする吊り橋から紅葉を眺める異色の体験が楽しめます。

九酔渓の紅葉がみごとなのは、一帯の186haが原生林(大分西部森林管理署管理の国有林)であるため。しかも九酔渓の自然林はくじゅう山系における唯一のモミ、ツガ林の生育地。当初は吊り橋も「鳴子川大吊橋」という名前だったところ、公募で「九重""夢""大吊橋」に。当然、夢には橋による過疎地脱却、若者の定住など地元の思いも含まれています。

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主塔の歩道部が標高777mという九重""夢""大吊橋

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震動の滝の紅葉。九重""夢""大吊橋の駐車場から続く歩道を5分ほど歩くと、震動の滝雄滝展望台に出る


ドライブプランとしては、九酔渓から長者原へ。ラムサール条約の登録湿地にもなっているタデ原湿原には、長者原ビジターセンターを起点として木道(長者原自然研究路)も整備されています。「湿原で紅葉? 」と不思議に思われるかもしれませんが、イネ科の植物が風流に穂を伸ばし風に揺れる季節。11月上旬には黄金の原へと移りゆく姿を目にします。

11月中旬頃までは九酔渓の原生林と「日本の滝百選」でもある震動の滝周辺の紅葉を九重""夢""大吊橋から眺め、タデ原湿原の木道で黄金に染まるススキ原を観賞という、くじゅうらしい紅葉ドライブが楽しめます。

やまなみハイウェイ長者原の紅葉.jpg

紅葉のやまなみハイウェイ・長者原





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2013年11月04日

苦渋のくじゅう連山 その9 卵のワンダーランド・コッコファームたまご庵

菊池渓谷よりも同行者が断然興味を抱いていたのが、実はこの「コッコファーム たまご庵」。もちろんご機嫌取りも兼ねて立ち寄る。しかし予想以上にすごかった。

併設のレストランは平日でも行列。自慢のデミソースオムライス親子丼もとてもおいしかったけれど、物産館の方がより興奮。毎月15日のお菓子の日やたまご詰め放題など、さまざまなイベントも行なわれており、近所にあったら確実に通い詰めてマス。

コッコファームデミソースオムライス.jpg

コッコファーム親子丼.jpg

レストランでの人気が高いデミソースオムライスと親子丼は、寄る価値ありの味。実は夕食に備え、ともにハーフサイズ(上の写真)を注文。オムライスは月替わりの限定メニューも魅力的でかなり悩んだが、王道をチョイス


ここでは、卵の「箱買い」当たりまえーの世界。みんな段ボール入りの卵をどかどかと車に積んどります。そんなに生卵を一気買いして大丈夫なのか? と思うけど、ご近所さんとか親戚とかに分ける人も多いとのこと。

「コッコファーム」なだけに、メインは直営農場の「朝取りたまご」と「紅うどり」(鶏肉)。これらを使った加工品をはじめ、かしわ飯弁当や玉子焼きなどの惣菜も魅力的。パン・菓子、地場産野菜や旬の果物、乳製品に漬物まで豊富に揃い、ホント目移りします。

コッコファーム朝取りたまご.jpg

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朝取りたまごは3kg(40〜45個)入り1200円から、日常サイズの10個パック390円や700g370円のネット入りなどさまざま。一部に色むらなどがある自社二級卵や殻が割れた卵なども処分せず、格安で販売しているのがミソ

コッコファーム物産館館内.jpg

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とにかくみやげにはことかかないラインナップで、なかなか決められない

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物産館内にある菓子工房には、阿蘇の牛乳を使った濃厚なたまごソフトクリームのほか、卵白シフォンケーキやたまごシュークリームなど、毎朝手作りのスイーツが並ぶ


また物産館の前には、季節の花の苗や種などを販売する園芸コーナーもあります。もはや道の駅と同じ感覚。いや、それを凌駕する勢い。菓子工房の名物「たまごソフトクリーム」もあっという間に平らげ、ご満悦。

いやー、ここは卵のワンダーランドやー(彦摩呂風)。菊池渓谷から約30分、熊本空港や九州自動車道植木ICまでも約30分と、ドライブの立ち寄りポイントとしてなかなか便利な立地です。

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コッコファーム酢味たまご.jpg

迷った挙げ句、上の品々+高菜漬けなどを購入。本当は地場の野菜も欲しかったけれど我慢。下の紅うどり「酢味たまご」は、自社温室で育てたバナナを使った「バナナで酢」が味の決め手



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